メディしるば

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性感染症のはなし

みなさんは性感染症STI)という話題から「消極的に逃げて」きたのではないでしょうか。 しかし現在日本は、いわゆる性風俗ツアーの横行・外国人の流入・HPVワクチン接種積極的推奨の自粛・性教育に対する誤った見解による国民の知識不足などによって、性感染症大国になりつつあります

そこで今回はあえて、タブー視されやすいこのSTIについて、一番伝えたいことをまとめたいと思います。

1. クラミジア感染症

日本で現在一番多いSTIクラミジア感染症です。 男女とも症状が少ないものの、女性の場合、子宮外妊娠や不妊症の原因になります。 厚生労働省の『性感染症報告数』[1]では近年クラミジアの流行はかなり下火になりつつあるように見えますが、無症状・無自覚での妊婦クラミジア感染率はほとんど変化ないという報告もあり[2]、「無症状の媒介者」となってしまっていることも少なくありません。

2. B型肝炎

みなさんはB型肝炎と聞いて、どのようなイメージを抱くでしょうか。針刺し事故、訴訟、注射針の使い回し、母子感染etc. これらがB型肝炎の感染源であることに間違えはありませんが、実は首都圏におけるB型肝炎ウイルス感染経路のほとんどは性行為なのです(下図参照)[3]

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首都圏におけるB型肝炎ウイルス感染経路別パーセンテージのグラフ
B型肝炎ウイルスに感染すると急性ウイルス性肝炎(稀に劇症化し、死亡率数十%)を発症し命にかかわることもあります[4]し、肝炎・肝硬変・肝がんなどの慢性疾患にかかることにもなります。

3. HPVによるSTI

HPV(ヒトパピローマウイルス)によって引き起こされるSTIには主に「子宮頸がん」と「尖圭コンジローマ」があります。 子宮頸がんは若い女性の罹患率が高く(下図参照,, [5]より引用)[5]、尖圭コンジローマは男女ともに感染し、再発率が高いです。子宮頸がんにかかると月経中でないときや性行為の際に出血したり、おりものに異常が生じたりします。尖圭コンジローマに罹患すると性器や肛門にイボイボが生じます

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20~30代の子宮頸がん罹患率推移のグラフ

ここまでいくつかの感染症を挙げてきましたが、もちろん対策はあります。 B型肝炎とHPVウイルスによるSTIはワクチンで防ぐことができます。 特に以下の事項に該当する場合は強く推奨されます。

  • 家族に感染者がいる
  • 性行為のパートナーが複数いる
  • 性風俗産業を利用する
  • MSMである

接種を希望する場合はかかりつけ医または総合病院内の総合診療科/地域の保健所に相談してください。 また、HIVを含むすべてのSTIに対してコンドームの適切な使用が非常に効果的です。

STIについて知り・対策をし・予防することは、自分のためだけではなく、パートナー・これから生まれてくる我が子のためにもなることです。気がかりなことがあれば、近くの信頼できる有識者や医師にすぐに相談してください。 医師はあなたの情報と気持ちを絶対に大事にします。 ではまた次回。

〈参考文献〉
[1] 厚生労働省性感染症報告数」(http://www.mhlw.go.jp/topics/2005/04/tp0411-1.html)
[2] 熊本悦明・木下勝之 (2015)「無症候性・性感染症時代における,秘かな性器クラミジア感染症の大流行の実証 : 全国32万5千人の一般市民妊婦での感染率調査」, 日本産科婦人科學會雜誌 67(2), pp.457
[3] 山田典栄他 (2008)「首都圏におけるB型急性肝炎の実態と変遷:Genotype Aに焦点をあてて」, 肝臓, 49(12), pp.553-559
[4] MSDマニュアル「急性ウイルス性肝炎」
[5] MSD「子宮頸がん 私の問題」(https://www.shikyukeigan.jp/sp/infographics/#2)